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大阪地方裁判所 昭和60年(わ)3548号 判決 1985年10月25日

主文

被告人を免訴する。

理由

本件公訴事実は「被告人は、昭和五〇年七月八日堺簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年四月に、同五二年三月二九日大阪地方裁判所において窃盗罪等により懲役二年に、同五三年五月二六日羽曳野簡易裁判所において窃盗罪等により懲役一年六月及び同一〇月に、同五七年一月七日大阪地方裁判所において常習累犯窃盗罪により懲役三年六月に処せられ、いずれもそのころ右各刑の執行を受け終つたものであるが、更に常習として、同六〇年五月三日午前三時ころ、大阪市住吉区東粉浜一丁目一二番一号所在の〓兆すし店において、同店経営者西田長生所有の現金約一〇万七〇〇〇円を窃取したものである。」というのであり、右事実は、被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官及び司法巡査に対する各供述調書、西田長生作成の被害届及び同人の司法警察職員に対する各供述調書、検察事務官作成の各前科調書、裁判官島田仁郎及び同〓田昭作成の各判決書謄本、裁判所書記官(及び裁判官)作成の調書判決謄本によつて認められる。

ところが、他方、裁判官辻本敏彌作成の判決謄本、被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官及び司法巡査に対する各供述調書、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書謄本、検察事務官作成の昭和六〇年一〇月一一日付前科調書によれば、被告人は、正当な理由がないのに、前記現金窃取行為後である昭和六〇年五月三〇日午前二時二〇分ころ、大阪府阿倍野区松崎町三丁目二番常盤公園内において、他人の建物に侵入するのに使用されるような器具であるペンライト一本、金槌一本を上衣ジヤンパーポケツト内に隠して携帯していたという軽犯罪法一条三号違反罪(侵入具携帯罪)により、昭和六〇年七月一八日大阪簡易裁判所において拘留二〇日に処せられ、同裁判は控訴期間の経過により同年八月二日既に確定していることが認められる。被告人の右軽犯罪法一条三号の侵入具携帯行為は前記現金窃取行為後における行為であり、なお前掲各証拠によれば、被告人は他人の住居等に侵入のうえ財物を窃取する目的で右侵入具携帯行為をしたものであることが明らかである。

そこで、本件公訴事実に係る常習累犯窃盗行為(以下、単に窃盗行為という。)と右確定判決に係る軽犯罪法一条三号の侵入具携帯行為との罪数関係について考えるのに、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条の常習累犯窃盗罪の立法趣旨に照らし、犯人が過去一〇年以内に三回以上窃盗罪等同種前科の刑執行を受け終つているにも拘らず、更に常習として、一個又は数個の窃盗(又は同未遂)罪と窃盗目的の住居侵入罪を犯した場合、この住居侵入罪は右一個又は数個の窃盗(又は同未遂)罪とともに包括して一個の常習累犯窃盗罪のみを構成するのが相当というべく(最高裁判所第三小法廷昭和五五年一二月二三日判決、刑集三四巻七号七六七頁以下参照)、さらに、軽犯罪法一条三号の侵入具携帯罪の立法趣旨は、当該侵入具携帯の行為が住居侵入・窃盗罪等のより重い犯罪に至る危険ありとして、その危険が未だ潜在的状態である間に阻止することを専ら目的とするものであつて、右侵入具携帯罪は住居侵入罪が成立するときはこれに吸収されるべき性質のものと考えられ、本件においては、被告人が本件公訴事実に係る窃盗行為とともに、住居侵入・窃盗の目的で前記確定判決に係る侵入具携帯行為をしたものであるところ、以上の点を考合すれば、前記確定判決に係る侵入具携帯行為は、本来、本件公訴事実に係る窃盗行為とともに包括して盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条(二条)該当の常習累犯窃盗一罪を構成し、別罪として軽犯罪法一条三号の侵入具携帯罪を構成しないものと解するのが筋合である(大阪地方裁判所第一五刑事部二係昭和五九年一二月七日判決・判例タイムズ五五三号二五七頁以下参照)。

しかして、もともと右一罪の関係にある本件公訴事実に係る窃盗行為と前記確定判決に係る侵入具携帯行為のうち、後者につき、軽犯罪法一条三号違反罪(侵入具携帯罪)としてであれ、既に確定判決が存在するのであり、本件公訴事実に係る窃盗行為は右確定判決前の行為であるから、その確定判決の既判力は本件公訴事実にも及ぶものといわねばならない(なお、司法警察員作成の「窃盗被疑者桝谷議一に対する割出し経過並びに逮捕の必要性について」と題する書面、被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官及び司法巡査に対する各供述調書、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書謄本、記録中の逮捕状の存在によれば、本件公訴事実に係る窃盗行為が被告人の犯行であることは前記確定判決に係る侵入具携帯行為前である昭和六〇年五月二一日既に大阪府住吉警察署に判明しており、その翌日ころ被告人に対する右窃盗行為を被疑事実とする逮捕状も発布されて、被告人につきいわゆる指名手配がなされていたものであり、被告人が確定判決に係る侵入具携帯行為につき同月三〇日警察官に現行犯逮捕され、引続き勾留のうえ大阪府阿倍野警察署において取調をうけていた当時、同署係官にも本件公訴事実に係る窃盗行為のあることを知られていながら、これについては、前記確定判決の判決確定後相当期間が経過した同年八月一日本件公訴事実を被疑事実とする同年七月二六日付逮捕状によつて逮捕されるまで、捜査官による被告人の取調がなされず、このため近時に至つてようやく本件公訴事実につき公訴提起されたものであることが認められる。)。従つて、本件公訴事実については確定判決を経たものとして刑事訴訟法三三七条一号により被告人に対し免訴の言渡をすべきものである。

よつて、主文のとおり判決する。

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